「五つの壁」

変化への対応

我々コンサルタントは、様々なお客様先で、その企業の問題や課題に直面します。

企業や組織、プロジェクト、どれも人が介在しているものなので、問題や課題は、人を発端にしているものも少なくありません。企業や組織の基盤は従業員=人であり、企業の成長は、人が鍵を握っていると言えます。

それでは、この『人』に問題や課題があった場合はどうでしょうか。

この『人』に問題や課題が巣食っていては、企業の発展は考えられません。

そこで、今回は人に起因する問題発生の素(壁)をご紹介したいと思います。

第一の壁「認識の壁」

人間は自らの見たいように、聞きたいように事実と向き合ってしまうため、組織の具体的な目標は、それぞれの思惑や思い込みによって都合よく解釈されてしまうことがあります。

以前私が携わった仕事においても、自分が何をすべきか、どんな役割を果たすべきかを、作業者各々が自分の中で定義してしまっていたことから結局、ニーズとかけ離れてしまっていたということがありました。

企業やプロジェクトにおいて、相互に理解していると思っている事も、そこに属する人たちの様々な思い込みにより、常に誤解の危機にさらされているのではないでしょうか。

第二の壁は「行動の壁」

課題に直面したときなどに人間は、過去の失敗体験の呪縛を受け、積極的な変化や改善を提案することに臆病になってしまいます。また、過去の成功体験に固執してしまい、新たなソリューションを見つけ出すことを止めてしまうことで、その状況における最良の結論を考え出すことが出来なくなってしまいます。

私も課題を前にして、新しい解決案を試すことを恐れ、過去にとった行動そのままの対応をしてしまったり、以前出来なかったことは、今回も出来ないと決め付けてしまうことがありました。皆様も経験がおありではないでしょうか。

出来ないことやリスクを列挙するのは簡単ですが、予想図を描きながら、出来ることを実践していくことは容易ではありません。

第三の壁「知識およびトレーニング不足の壁」

企業や組織において、個人の知識が共有化されず、また、知識を習得するためのトレーニングを行わないことにより、この仕事はこの人だけが担当するなど、次第に作業が属人化されてゆき、知識がある人と知識がない人に差が生じます。

人間は、自分の持っている知識に価値を感じています。しかし成果主義や実力主義が唱えられる今日では、知識を共有してしまうと、その価値が薄れてしまい、自分の評価が低下するように感じられて、知識の出し渋りが起こり得ます。

同じ組織にいても、個人個人がこのように考えてしまうことで、自分の保持する知識を守り、組織内で共有されるべき新たな知識や情報を取り入れられないことに繋がってくるのではないでしょうか。

第四の壁「仕組み(システム)の壁」

上記にヒトの持つ3つの壁を挙げましたが、これらに対する組織の配慮がなされていなければ、個人個人が思い思いに成果を求めて業務に就いても、効率は上がりません。

成功している組織の仕組みを取り入れるだけでは、どんな組織でも成功するわけではなく、組織の仕組みが従業員の共感を得られていなければ、従業員の能力も生かされません。

しかし、組織や仕組みがあって、そこに従業員が当てはめられるのが一般的で、何も変わらない、固定化され変化に適応できない組織の仕組みが多く、様々な従業員の考えに順応できる仕組みではないことが実際です。

第五の壁「あきらめの壁」

上記のような4つの壁が、最終的には従業員の内面に「あきらめの壁」を形成してしまいます。当初持っていたであろう「良い仕事をしたい」という思いが、どこをとっても頭打ちされ、最終的には絶望感に変えてしまう阻害要因となってしまうことになります。

この5つの壁は、本コラムでも参考にさせて頂いた『隠れた人材価値』で、知識を実行に転化することが重要だとして挙げられているものですが、この5つの壁を無くす方法はなく、企業、個人それぞれがこの壁を認識して、低くすることが重要だと述べられています。

認識の壁では、まず人の話をよく聞くこと。聞いてから自分の話をする。行動の壁では、あれこれ考えるよりも行動すること。知識およびトレーニング不足の壁では、勉強やトレーニングを積極的に行うこと。仕組みの壁では、仕組みや組織を見直すこと。仕組みが目的ではなくて手段だと考え、合わないものは取り除く。

これらの結果、あきらめの壁を低くすることが出来るのではないでしょうか。

参考文献:

  • 『隠れた人材価値』チャールズ・オライリー、ジェフリー・フェファー 著/長谷川喜一郎 解説

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
宮村 環

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。