eマーケティングの新潮流<連載>
東京工科大学メディア学部  准教授  進藤美希

【執筆者プロフィール】

  • 進藤 美希(しんどう みき)
  • 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 博士後期課程修了。博士(経営管理)
  • 日本電信電話株式会社を経て現職。
  • 著書に「インターネットマーケティング」(白桃書房)、「コミュニティメディア」(コロナ社)など。

第3回 インターネットコミュニティの活用

この連載も早いもので最終回となりました。今回は、eマーケティングの領域における、とても大切なテーマである、コミュニティについてお話したいと思います。


なぜeマーケティングにおいてコミュニティが重要なのでしょうか。もともとコミュニティは、人間にとって本質的に重要なものです。なぜなら、コミュニティは人に、他の人と共に生きる場、生存のための場を与えるものだからです。

しかし、コミュニティの形や役割は時代と共に大きく変わってきました。長い間、コミュニティは主として、近くの場所にいる人々と共につくるものでした。地理的なへだたりは非常に大きく、離れた場所の人とつながることは難しかったからです。


しかし近年のインターネットの登場は、コミュニティから場所の制約をとりはらいました。結果、現代のコミュニティはグローバルな広がりを持つようになっています。インターネット普及以前でも、人々は郵便や電話などのメディアによって離れたところにいる人と連絡をとることはできましたが、リアルタイムのコミュニケーションを大人数で行うことは望めませんでした。


しかし、インターネットを活用すれば、リアルタイムのコミュニケーションが容易に可能となりました。つまりインターネットが高度に発達した結果、コミュニティは大きく広がり、また、その発揮できる力も大きくなったということができるでしょう。

企業は、このインターネット上のコミュニティ、すなわちインターネットコミュニティをさまざまなシーンで活用することができます。たとえば、お客様や外部の専門家の協力を得る場とすることができます。現代においては、技術や市場の変化が速く、企業は自分の社員や研究員の力だけでは追いつくことが困難です。そこで、このインターネット上のコミュニティを通じてお客様の力をお借りすれば、急速な変化においつき、おいこすことさえできるのです。お客様のお考えや購買活動が大きく変化し、提供企業側の論理で研究開発した製品をおしつけても、受け入れられなくなったという事情もあります[1]


では、みなさまの企業では具体的に、インターネットコミュニティをどのように活用可能なのでしょうか。いくつかの方法が考えられます。

1つめの方法としては、インターネットコミュニティ上で、企業が、オープンな研究開発、製品開発を行う場を作るという方法が考えられます。外部の技術者や専門家の力を生かして開発をしようというのです。こうした場を作れば、企業の内部だけでは解決することができなかった技術的課題を解決したり、斬新な発想に基づく製品をつくることができるでしょう。

実際にオープンな研究開発、製品開発を行う場を提供している企業として、イノセンティブをご紹介しましょう。イノセンティブでは、2007 年に、結核治療のための薬品製造プロセス効率化法について、広く解決策を募集しました。この公募には世界から344 人の研究者か?興味を示し、うち27 人が具体的な提案まで行いました。この27人の提案のなかから、最終的に中国とドイツの科学者が提出したプランが採用され、成果を上げています[2]

2つめの方法としては、インターネットコミュニティ上で、お客様のご意見、アイデアを広く集めるという方法が考えられます。お客様から直接的なご意見をいただき、真摯に対応すれば、マネジメントや製品の改善を図ることができるでしょう。

実際にインターネットコミュニティ上で、お客様のご意見、アイデアを広く集めている企業の例としては、ソフトバンクを紹介します。ソフトバンクでは、孫正義社長自ら、ツイッターで2009年につぶやきを開始、お客様からの多くの意見を受け付けています。寄せられたご意見のなかから、孫社長が実施を決定した案件は「やりましょう」案件と呼ばれます。これについては、担当役員が、可能な限り早く実行するようになっています。結果、2013年までに155件の案件が対応を完了しています。このように、日本を代表するような大企業の経営者に対して、お客様が直接意見を伝え、経営に影響を与えるような仕組みはこれまでにはありませんでした[3]

3つめの方法としては、広告コミュニケーション領域においてインターネットコミュニティを活用するという方法が考えられます。こうした活動をしている企業は多数ありますが、今回はローソンの例をご紹介しましょう。

ローソンは、ソーシャルメディアの活用にたけていることで知られていますが、最近では、無料通話・メールアプリであるラインも積極的に活用しています。ラインは親しい少数の友人とのコミュニケーションツールとしてとても人気があります。ローソンはこのコミュニティを活用して、お客様に対し、クーポンなどをそえたメッセージを送っています。このメッセージにより来店、購買がうながされ、大きな成果を出しています[4]


以上のように、eマーケティングの推進にあたっては、インターネットコミュニティの活用がとても重要です。ぜひ、みなさんも、ご自身の会社にあった形でコミュニティとのつながりを深めていただければと思います。
それではまたお目にかかりましょう。ごきげんよう!


  1. ヘンリー・チェスブロウ、大前恵一朗訳「オープンイノベーション」産業能率大学出版部、2004年10月28日
  2. 柳澤智也「イノベーションのオープン化と新興する知財マーケット後編その2」特技懇No.259、2010年
  3. ソフトバンクホームページ「よくあるご質問と回答」「やりましょう進捗状況
  4. ガイアックス・ソーシャルメディア・ラボ「LINE友だち数No.1を走り続けるローソンのLINE公式アカウント運用の裏側」2013年