eマーケティングの新潮流<連載>
東京工科大学メディア学部  准教授  進藤美希

【執筆者プロフィール】

  • 進藤 美希(しんどう みき)
  • 青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 博士後期課程修了。博士(経営管理)
  • 日本電信電話株式会社を経て現職。
  • 著書に「インターネットマーケティング」(白桃書房)、「コミュニティメディア」(コロナ社)など。

第1回 eコマースの大きな可能性

インターネットは日常生活になくてはらなないものになりました。ビジネスマンのかたがたは、電子メールやウエッブを使わずに過ごす日はほとんどないのではないでしょうか。

インターネットの利用者数は情報通信白書[1]によると、9610万人に達しており、ほとんどすべての人がネットに接続する時代を迎えています。こうした時代の変化は、ビジネスにも大きな影響をおよぼしています。私たちはこれまでのビジネスのやりかたを変えていかなくてはなりません。しかしどのように?そこで、この連載では、3回にわたって、eマーケティングの新潮流についてお話していきたいと思います。第1回の今回は、eコマース、すなわち、インターネット上の商取引について述べます。なかでも、有形財(形のある製品)のB2C(Business to Consumer:最終消費者向けのeビジネス)取引に焦点を当てたいと思います。

さて、このジェクシード社のサイトをごらんになっているみなさんは、経営やITにお詳しい方が多いと思います。みなさんはかなり早い段階から、AmazonやDellなどのサイトを使って、本やコンピュータをお買いになっていたのではないでしょうか。確かに、eコマースの初期は、インターネットに詳しいかた、経営者、研究者、技術者などが中心的なお客様で、購入される商品も本やコンピュータといった専門的なものでした。しかし、現在ではすっかり様相を変えています。経済産業省の調査[2]によると、eコマースにおいては、医薬化粧品、衣類・アクセサリー、食料品の分野が20%から30%の高い伸びを示しています。今では、日用品が多く購入されるようになっているのです。

医薬化粧品、衣類・アクセサリー、食料品などをお買いになるのは、どのようなかたでしょうか。女性のお客様、それも幅広い世代のお客様が想定されます。事実、「消費者購買動向調査」[3]によると、ネットショッピングの利用回数が多いのは、40代女性、男性という結果が出ています。40代というのは、仕事においても家庭においても、非常に忙しい時期であり、時間の余裕がない時期でもあります。お子さんがまだ手のかかる年齢のかたもいらっしゃれば、要介護の高齢者をお世話しているかたも多いでしょう。eコマースを利用する理由としては「店舗までの移動時間、営業時間を気にせずに買い物ができるから」[2]という理由が1 位となっており、お忙しいかたが、自宅で、深夜に、ネットを使って買い物をしていらっしゃる姿が浮かんできます。

衣類・アクセサリーの急成長に関しては、ファッション通販サイトの充実、顧客サービスの向上が大きく影響したと思われます。以前は、衣類は、ネットでは売れない商品の代表として論じられることが多くありました。「お客様は衣類をネットで買うことなどありえない」という思い込みが、企業側にはありました。しかし実際には、そうではありませんでした。アマゾンジャパンが 運営する「Amazonファッションストア」[4]や、スタートトゥデイが運営する「ZOZOTOWN」5)の躍進を見ればそれはあきらかです。

彼らはどのようにして、課題を解決し、躍進したのでしょうか。たとえば、Amazonファッションストアでは、お客様が商品を注文した後、到着後30日以内であれば、室内で試着した商品の返品が可能です。さらに、返品送料もAmazonファッションストアが負担しています。つまり、お客様は、気になる商品を気楽な気持ちで注文でき、万一、サイズが合わなかった場合には、金額負担なしに(返品送料さえ負担することなく)返すことができるのです。アマゾンジャパンの姉妹サイト「Javari.jp」にいたっては、商品の到着後365日(!)以内であれば送料無料で返品することができます。こうなると、お客様は、あまり迷うことなくまず注文して現物をとりよせ、自宅で試すという消費行動をとるようになります[6]

躍進の要因はこれだけではありません。Amazonファッションストアを見ると、その品ぞろえの豊富さに驚ろかされます。多様なシーンにふさわしいさまざまな商品はもとより、よく知られたブランドも多数とりそろえられており、ファッショニスタ(ファッションに非常に敏感な人々)をも引き付けられる充実した品ぞろえを実現しています。さらに、ファッション雑誌やFacebookとの連動企画などにより、お客様層を広げる試みも功を奏しています。

eコマースを導入するにあたっては、商材、業界によってさまざまな課題があることは確かです。しかし、だからといって、「やらない」と言う結論に達してしまうのは、いかにももったいない。「私の会社の扱っている商材、私のいる業界では○○という課題があるからeコマースはむずかしい」と考えるのではなく、○○という課題をどうしたら解決できるだろうと考えるべきとあると思います。いち早く課題に取り組み、解決方法を模索して、実行すれば、他社にさきがけて成功することが可能です。

すべての業種でおそかれはやかれインターネット上での取引が主流になることは自然の流れであり、これはもはや避けることはできません。もちろん、課題の中には解決がむずかしいものもあるでしょう。たとえば、ネットで販売してしまうと、リアル店舗(お店)の売上が下がってしまうかもしれないといった危惧や、お客様が高齢であるので、パソコンやスマートフォンなどを使いこなせないだろうといった危惧があるかもしれません。

リアル店舗との問題は、マーケティングでは、チャネルコンフリクト、すなわち従来のチャネルと新しいチャネルの間の軋轢としてとらえられることが多いのですが、従来のチャネル(リアル店舗)も、切り捨てる必要はありません。ネットとリアル店舗を共に活かす方法を考えてはどうでしょうか。その具体的な手法としては、O2O(Online to Offline)、つまりオンラインのチャネルとオフラインのチャネルが有機的に連動する手法があります。たとえば、「楽天うまいもの大会」[7]は、楽天市場で人気のスイーツや食べものの店を集めて、百貨店の催事場で行われている催しものですが、この大会は、O2Oの成功例として知られています。楽天うまいもの大会により、楽天は、普段はeコマースをあまり使わない薄い百貨店の顧客に対してその魅力を伝えることができます。一方、百貨店にとっては、吸引力のある商品による大きな集客効果が期待できるとともに、普段百貨店にお越しにならないお客様を引き付けることができるのです。つまり、共存共栄が実現しています。

お客様が高齢であるので、パソコンやスマートフォンなどを使いこなせないだろうという課題の解決にあたっては、どうしたらいいでしょうか。いっそのこと、タブレットに、買い物用のアプリを組み込んで、お客様にプレゼントしてはどうでしょう。(もちろん使い方はご説明する必要がありますが。)お客様のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を考えれば、タブレットや通信費の投資額は十分回収できるのではないでしょうか。

以上のように、eコマースには大きな可能性があり、本当に楽しみな領域であるということができます。

次回は、スマートフォンを通じた無形財のビジネスについてお話をしたいと思います。

  1. 総務省「平成24年度版情報通信白書
  2. 経済産業省「平成23年度我が国情報経済社会における基盤整備」2012年8月28日
  3. 経済産業省「消費者購買動向調査」2009年4月21日
  4. Amazonファッションストア
  5. ZOZOTOWN
  6. 日本経済新聞「自宅が試着室」2013年1月24日
  7. 楽天うまいもの大会