eマーケティングイノベーション

世の中がいま求めるもの

最近の景気復調ムードの中で一般消費者の購買意欲が高まっている。
しかし、この高まりに対して景気上昇の力強さと継続性に疑念を抱く人も多いだろう。その理由として、私は新しいライフスタイルを提供しうる商品やサービスが発表されていないことを指摘する。今回の購買意欲の高まりは、高所得者層による資産効果とそれ以外の所得者層による気運や先行期待によるとされている。高額商品の需要は高所得者層中心に高まっているが、ここでは全所得者層に広く関係する耐久消費財(とくに電気製品)の需要について述べることにする。

「iRobot ルンバ」や「シャープ ココロボ」、「東芝 スマーボ」などのお掃除ロボットのように掃除機というカテゴリの中で新たなライフスタイルを提供し、既存の掃除機と共存できるような製品は少ない。たいていの電気製品はこれまで少々我慢して使っていた製品を買い替える対象に留まっている。買い替える製品は買い替え前に比べて新機能が追加され、耐久性も高まっているにも関わらず、価格は抑えられ、むしろ安価になっていることが多い。電気製品は購入サイクルの長期化、製品の低価格化といった企業にとっては悩ましい状況に陥っている。

さらに電気製品は買い替え対象となった時点で製品自体がコモディティ化するため、これまでのライフスタイルに劇的な変化はもたらさず、そこからは製品が提供する機能以外の新たな需要は生み出さない。つまり、電気製品は買い替え対象となってしまった時点で、継続的な市場拡大や新たな需要の掘り起こしを見込めなくなる。

企業は一般消費者に対して新たな利便性をもたらす重要な役割がある。ニーズ志向から生まれるものもあるが、シーズ志向から生まれて一般消費者に驚きをもって支持されるものもある。まさに、ロボットがお掃除をして、しかもゴミをきれいに取ってくれるなんて一般消費者に驚きをもたらすシーズ志向の好事例と言える。
企業はこのまま縮小する市場に乗るだけでなく、その縮小するループの中から出るためにも、自らが新しい製品やサービスを発表しつづけ一般消費者の新たな需要を掘り起こす必要がある。

ものがあふれて満腹状態となっている世の中はまさに、いまそれを求めている。

リアルとサイバー

最近はデジタル情報技術の高まりからリアルとサイバーの区別がつかなくなってきている。この種のテーマを語るには1991年に放送されたCX系「世にも奇妙な物語 秋の特別編」の「バーチャル・リアリティ」を思い出さずにはいられない。物語は男性の脳に電極を埋め込み、外部から情報を与えることで脳だけになった男性を仮想空間の中で生活させるといった内容である。この物語では脳に情報をインプットしてその反応をみるものだが、脳から直接情報をアウトプットして意思疎通を図る実験は、すでに現実的に行われている。

リアルとサイバーの同一化は実際のビジネスにも出てきている。
例えば音楽について、これまではレコード、テープ、CD、MDといったリアルな媒体に入って流通するものであったが、最近は「Apple iTunes」や「SONY Music Unlimited」などネット上のサービスからプレーヤとなる情報端末に直接音楽データを取り込むことが一般化している。音楽を楽しむという行為自体は昔と変わりないが、流通方法が劇的に変わった。出版についても、「楽天kobo」や「Amazon Kindle」、「SONY Reader Store」などの電子書籍も音楽と同様に文書データをネット経由で情報端末に展開するものだが、紙では提供できなかった文字サイズの拡大、バックライト機能、モビリティといったサイバーならではの機能を提供して本を読むという行為の利便性を提供している。

これらのサイバー化の流れは廃盤となって入手できなかった音楽と出逢うことができたり、小さな文字を目で追うことを敬遠していた人たちに読書をする機会を与えたりと、ある意味で新しい市場を作り出すきっかけとなっている。さらに、いつでも手にする情報端末としてケータイやスマートフォン、メガネ、時計と同様に身近な存在になった場合には、特にデジタルデバイド層へのネットビジネスの大きなチャネルと成り得る。敬遠していた情報端末を初めて使いこなすことで、身近な存在になるからだ。

近未来には、電話もメガネも時計もTVもPCもゲームも…たった1台の情報端末に装備され、日々の生活に欠かすことのできないツールとして定着するだろう。

小売業界の変革

デジタルデバイドが解消されることによって、一般消費者がネット上のショップで送料込みの価格が一番安い商品を購入する傾向はこれまで以上に強くなる。

鮮度や品質に影響しないコモディティ商品は特に価格勝負となるだろう。
アウトレットと称してメーカが直販することもますます多くなり、メーカと販社の間で損益ギリギリのせめぎ合いも予想される。さらに、海外ショップからの個人輸入も増加し、いよいよ小売業界はリアルとネット、メーカと販社、国内と海外のボーダレスな状況となる。

でも、本当に価格勝負だけなのか。

ここでは、価格以外の重要な要素として時間と体験とホスピタリティについて述べることにする。
リアル店舗とネットショップに共通することであるが、急なイベントにより必要な商品をすぐに欲しい、といったニーズに対して適格に応えることが重要になっている。品ぞろえを豊富にする、欠品を防ぐ、品質管理は当たり前で、温かいものを温かいうちに配達できるほどの身近な存在になれるかがカギである。それが提供できれば、同様に買回り品や最寄品の購入にもシフトできる。身軽なネットショップに活況感はあるが、リアル店舗には試食や試着など実際の商品を体験できる場が提供できること、相対で一般消費者とのつながりがしっかり持てること、地域に密着していることなど、ネットショップにはできないリアル店舗ならではの強みがある。

一般消費者は世代の区別なく人とつながっていたいものである。ゴルフやヨガなどリアルのコミュニティや、「Twitter」や「LINE」などサイバーのコミュニティで自分を表現している。いずれも、自分の趣味や嗜好に合った人たちと集まったり共感を求めたり、そのグループの中で情報を交換している。
結局のところ人は誰しも他の人とつながっていたいものなのだ。

今後ますますリアルとサイバーが融合する世の中で小売業界にもとめられることは、リアルなコミュニティとサイバーなコミュニティの両グループに対して、血の通ったつながりをベースに、リアルとネットショップの両店舗にて商品やサービスを提供することである。

おわりに

一般消費者のコミュニティも小売業界の店舗もリアルとサイバーに区別がなくなる、いわゆるオムニチャネル時代の到来である。商品やサービスにおいてオンリーワンであれば世界中の一般消費者にも驚きを与えることができ、オムニチャネル時代がゆえに爆発的なスピードで浸透していく。

世の中は常に驚きを求めている。しかし、驚きは長続きしない。ならば、驚きを生み続けるしかない。その積み重ねの結果が現代文明なのだ。

コラム担当:eマーケティング事業本部
芭龍臣(吉田英樹)

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。