サラリーマンと財政問題

日本の20代後半サラリーマンの税金に対する意識調査

ある土曜日、友人が日本のサラリーマンの給与の現状という表題がついた週刊ダイヤモンドを読んでいたので、「給与明細の税金部分を見ているかな。」と質問してみたら、「全く見ていないよー。銀行の残高明細に載っている手取り分しか興味ないよー。」との回答がありました。その人、その雑誌で給与がリストアップされている優秀君なのに・・・。その隣にいた外資系コンサル会社に勤務している友達に、「給与に対し、税金を何%納めているか知っている?」と質問したら、「えー知らないー。」と似たような反応がありました。サンプル数は極少ですが、税金に対する意識・知識の現状はこんな感じです。もしかしたら、20代後半に限らず、全体に言えるかもしれません。読者もそんなに違和感ないと思いませんか。

主な原因

税金に対する意識や知識が低い原因を考えてみると、ごく一例にすぎませんが、源泉徴収制度によるものなのかなと思います。源泉徴収制度とは、漢字をそのまま読んだ通り、給与の源泉から直接税金を徴収しちゃうというものです。日本のサラリーマンが納める税金は、毎月自動的に給与から天引きされ、年末に過不足分を調整する、そのようなシステムに組み込まれています。(最近は、住宅ローン控除というものがあって、別途個人で税金の申告を行う人も増えているようですけど。)そのシステムのおかげで、サラリーマンの税金については会社が給与計算時などに代行して税金を管理・納付してくれるので、サラリーマンは税金をどの程度納めているかを知る機会、きっかけが少ないと思います。

源泉徴収のメリット

といいながらも、源泉徴収制度には、2つの大きなメリットがあります。1つ目は、徴収面では非常に高い効率で税収を確保することができるという点です。所得税は、源泉徴収される源泉所得と自ら申告する申告所得に区分されるのですが、その源泉所得の割合は、平成22年度の概算では、約80%を占めています*1。(他にも税金あるから、国の税収の80%という意味ではないです。)国の徴収側の立場からするとすごく画期的なシステムと私は思います。

また、2つ目は、納税者側においても、複雑な計算知識は不要、年末の集計・納付手続きは求められないので、楽ちんなのです。サラリーマンが多い日本では、納付・徴収面で優れているシステムといえるでしょう。

アメリカの場合

ちょっと他の国と比べてみてみましょう。アメリカはというと、各人が申告期限までに申告・納税を行う申告制度を採用しています。

自ら申告をするということは、少しは自分の国の税制を理解しなければならなりません。もちろん、専門家に頼んでいる人も多いと思いますが。税制を理解することで、いろんな控除制度とかを利用し、税金を少なくすることに、一般的には注力するかと思います。例えば、アメリカの著名者が多額の寄付をすることを耳にしますが、もちろん、世の中の人々を救うことが目的であるけれど、税金面では、寄付金控除を利用し、税金を少なくする効果があります。おおざっぱな言い方をすると、困った人に直接支援することで、該当部分について税金を払わなくて済むという感じです。

さらに、税制度を理解する過程で、何でこんな税率高いのか、とか、この計算方法おかしいとか、いろんな疑問がわいてきて、国の税制への意識が高まってきます。そのような人々とお任せしている人との意識の差は結構大きいと思います。

その意識の差の例として、アメリカでは選挙がすごく盛り上がりますが、日本では、投票率も低く、全体的には盛り上がらないといったところに、その意識も反映されているのではないかと思います。
同様に、サラリーマンではない人たち(いわゆる自営業者)は、毎年確定申告を行う義務があります。彼らは、自ら税金を納めているので、税制に対する意識はサラリーマンに比べ高いと言えるかもしれません。

日本の財政問題の行方は、サラリーマンにかかっている!?

日本のサラリーマンの税金に対する意識の低さと原因についての一例をまとめましたが、この税金への意識を高めると今の日本の財政問題の改善に良い影響を与えると思っています。なぜなら、意識改革が起こると、以下のような展開が考えられるからです。

国の税制度に意識が高まると・・・・

  • 日本の税制がどうあるべきか、また、自分たちの税金の行方が気になるようになる
  • 税制度がどう改革されているのか、政治に興味を持つ
  • より良い税制のあり方、また、適切な再分配を行おうとする政治家を選ぶようになる
  • そのような政治家が選定されるようになると、彼らによって日本の財政が改善される
  • 平成22年の日本の正規の職員・従業員は約3355万人*2です。サラリーマンで世帯を持っている人たちを20%程度と概算すると、約4000万人がサラリーマン世帯の有権者となります。2001年の参議院選挙での有権者数は、約10100万人*3ですので、約40%にもあたります。投票率は56%なので投票者は5700万人。仮にサラリーマン世帯有権者4000万人が投票することで、選挙へ大きな影響を与えないとは言えないでしょう。

    以上より、日本のサラリーマンが税金に興味を持ったり、日本の将来について考え始めたら、大きな改革が起こると思いませんか。皆さんはどう思いますか。

    日本人の財政問題に対する意識改革のソリューションについては、メディアの対応の改善、政治家の勇気、教育の3つであると考えています。具体的な話は、別の機会にでも・・・。

    参考文献:租税法(第12版)金子宏 著

    *1財務省HPhttp://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2010/seifuan22/yosan015.pdf
    *源泉所得については、株式等の譲渡等による源泉徴収なども含む。
    *2総務省統計局_労働力調査(詳細集計) 平成22年平均(速報)結果
    http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/pdf/ndtindex.pdf
    *3総務省統計局_都道府県別有権者数、投票者数、投票率(選挙区)
    http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/sangiin19/sangiin19_2_3.html

    コラム担当:イノベーションデザイン推進部
    加藤 文子

    ※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。