【隣の芝は青い】

これは本当である。隣家の芝はウチのより青いというか、ホント青く見えるんだなあと気がついたのはウチの庭をしゃがみながら見た時で、そうすると芝生が詰まってびっしり生えているように見えたので妙にその時は納得した。

ウチと隣ではどちらがいい?

以前勤めていた会社の話ではあるが、部門の同僚がほぼ時を同じくして3人辞め、3人とも同じ会社に転職していった。まるで口裏を合わせていたようだが給料はこちらより良いらしいということを聞いた。またその内の一人は明らかに上司とソリが合わず常々不満を口にしていたから、まあそんなものかと思っていた。

でもそれから暫くしてその会社からこちらの会社に転職してきた人がいた。聞けば給料はそこそこ良かったが、連日の深夜残業に疲れ果てたのとやはり上司との人間関係のこじれで疲れてしまったのだとか。まあどの会社でも忙しい時には深夜残業当たり前の時期があるけど、やはりそれが半年以上続くと心身ともに壊れる可能性が高い。それでもその仕事が楽しければやりがいもあるだろうし、若いうちであれば気合いで何とか持つが、30代も後半を越える頃になってくると辛くなってくる。転職してきた彼は給料は下がったのかもしれないけれど、活き活きしているように見えたからこっちに転職してきて良かったのだろうなとその時は思った。

でも彼が入社して暫く経ったある日、彼の仕事で顧客からクレームが出てそれがきっかけで社内からも信頼を失い、上司からも疎ましがられひっそりといなくなってしまった。トラブルの原因は自分をよく見せようとする余り、経験も知識もない仕事なのに出来ると言っていたので任せてみたら顧客の前でボロがでたということで後始末が大変だったそうだ。 やはり仕事を維持していく上で一番重要なのは信頼関係の構築といったところで、それが崩れると人間関係にもヒビが入ってくるのは仕方ないだろう。

転職の理由

リクルート社の転職サイトであるリクナビネクストの記事によると、転職の動機としてダントツ1位に挙げられるのが上司との人間関係。2位が給与の不満となっている。もし今の会社から離れ、今の実力でも他の会社に行き収入向上が十分見込めるならば、モチベーションも上がるだろうし、それに伴って活躍の場も広がるだろうから転職理由としては、至極まっとうなものである。

でもそれが今の人間関係の悪さからの逃避だとすれば、良い悪いを判断するのは難しい。なぜならば、仮に転職して今の人間関係の呪縛から逃避できたとしても、次の会社にはどんな人がいるのかわからないので、また同じ状況に陥る可能性が十分考えられるからである。無論、採用面接においても離職の理由を人間関係の悪化とは言いにくいだろうから、無理やりソツのない動機を考えて説明するだろうし、自分でも納得した気になって入社したものの、その後になってから離職理由はともかく、ではなぜ今の会社に入ったのかということを考える局面に至った場合に目標を見失い、自己嫌悪に陥る可能性が高い。

その結果、では次はやりたいことをやれる会社に転職しようなどと考え、ここでも嫌なことがあればまた転職すればいいやというネガティブスパイラルにハマるとそこから抜け出すのは難しい。

人間関係の克服

では、特に問題となる上司との人間関係を克服していくにはどうしたら良いのか?考えられる答えはひとつで上司に信頼して貰えるようになること。つまり仕事で成果を出し認めて貰って、どんどん仕事を任されるようになることである。こういうととても難しい事であるように思えるけれど、別に大きな売上を獲得するとか、新規事業を立ち上げて軌道に乗せるとかおおげさなものでなくとも、何か自分ができることを一生懸命やってその結果が上司の目に留まるようになればしめたものである。

そもそも入社時から上司との関係が悪かった訳ではないはずで、関係のこじれの要因は上司の性格とか懐の大きさという側面も見逃せないけれども、仕事における自身の振る舞いに起因するものに有ることが多く、それを修復するためには仕事で補うしかない。

大した事はしていないのだけれど、自身の例でいうと全く英語ができないのにも関わらず海外販社の役員に対して日本の状況を報告するといった仕事を任されたのだが、意思疎通がうまくいかず上司はいつもしかめっ面をしている。会社に行くと息が詰まりそうな雰囲気で憂鬱である。さてどうしたらこんな状況を打破できるのだろうか?英語の勉強はしているが即効性に欠ける。そんなある日、日本にガイジン達が出張してきたので少しでも仲良くなろうと彼らをカラオケに連れて行った。お前も歌えというので赤面しながらも気合いを入れて中学時代から聞き親しんで歌詞を暗記している英語の曲を歌ったら異常に盛り上がって次の日の商談がスムーズに行ったということがあった。これをきっかけに上司の態度が変わり仕事がすごく楽しくなったという記憶がある。

事実から目をそむけない

遠くから見てキレイな芝生でも、実際その場に立って見ると土のところが目立っていて、実はそんなにキレイでもないということがよくわかる。仕事で何かツラいことがあるとついつい隣に目がいきがちだが、隣の芝が青いかどうかは、その場所に実際に立って見ないとわからない。もし職場での人間関係につまずいたら、まずはなぜそうなったのかということを考えながら仕事に打ち込んで見る。転職を考えるのはそれからでも遅くはない。

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
近藤 真

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。