幸せになるために必要なお金について

はじめに

人生の目標はなんですか、と聞くと昨今の若者は「特に目標とか、そもそもやりたいことがない」と前置きした後に「とりあえず、幸せになりたい。」と言います。そんなことは聞いていない、と思う方もいるかもしれませんが、私はシンプルでいい回答だと思います。仕事とか、将来とかそんなものは何でもいいから、とにかく幸せになりたい。そう思いませんか。どうすれば、幸せになれるのでしょうか。そもそも何をもって幸せと呼ぶのでしょうか。

確かに幸せの指標は人によって様々ですが、必要最低条件として確実に挙がるものがあります。それは「お金」です。今まで多くの研究者が心理学的にも経済学的にも個人的な人生経験的にも生活するお金がないと幸せにはなれないことを立証してきました。貧困によるストレスは人々の心を荒ませ、傷つけ、争いの原因となる場合もあります。

今回はそんな、幸せとお金の関係について考えていきたいと思います。

お金で買える幸せの限界

先日、米科学アカデミー紀要に年収630万程度までは年収の増加による効用(=幸せ)が逓増しそれ以上の年収の増加は効用(=幸せ)に影響を及ぼさない、という発表が掲載されていました。

その理由は、『お金がたくさんあってもより幸せになれるわけではないが、お金が少ないと心理的に苦痛を感じる。たとえば好きな人と一緒に過ごしたり、病気やけがにならなかったり、レジャーを楽しんだりといったことに幸福を感じられる人間の能力は、年収7万5000ドル(年収630万)を閾(しきい)値に、収入の多寡の影響を受けなくなる』からであり、また高額所得者はささやかな幸せを感じる能力が衰退したり、仕事のし過ぎで余暇がとれず、ストレスを抱えたりしているケースが多いことも原因の一部だとされています。

つまり、お金があればあるだけ幸せになれる、ということではなく生活に困ることのない適度な収入こそが幸せの最大化につながるということです。幸せの最大化を目指すにあたりインディアンの古い諺を借りるならば、”お金は必要だけれども重要ではない”ということです。

愛の最低価格

幸せとお金に関係し、よく議論されるのは『結婚において愛とお金どちらを優先させる方が幸せになれるか』という命題です。つまり、無職、もしくは低所得者で将来に不安がある一番好きな人と結婚するか、高所得者であり、将来も安定しているその他の人と結婚するかという選択です。

現在、日本は空前の婚活ブームです。適齢期に達した男女は出会いを求めてあちこちに集います。彼らはお互いに厳しく査定し合い、妥協案を出し合いながら婚活市場の早期退出を目指します。一般的に、彼らの査定項目は以下の4つであると思われます。

  1. 健康
  2. 性格
  3. 経済力
  4. 容姿

中でも、最近のトレンドとして 3. 経済力の重要性が以前に増して高まりつつあります。

理由としては、“愛があれば、貧しくたって生きてゆける、と誰かが歌っていたのは昭和中期。そんな時代の母を持ち、貧しさ苦しさ噛み締めて、あれよ、あれよと三十代。好きな人ができたけど頭のどこかで母の声、愛はお金があってこそ”、という親から学んだ教訓と昨今の不景気による経済的不安の増大が考えられます。この傾向は主に女性に見受けられ、具体的な数値では年収400万台をボーダーに結婚率は著しく低下しています。

確かに結婚において、愛をとるかお金をとるかは人それぞれではあります。しかし、自分がそのような選択する可能性があるということは同時に、相手にも同様の選択をされる可能性があるということです。

上述したように、経済力の重要性が高まりつつある今、相手が自分よりもお金を選択するリスクが高まっていると言えるでしょう。つまり、愛を手に入れ、結婚するためには定職につき安定した収入を得ることが高い確率で必要だと言えます。更に言うと、幸せの絶対条件に愛を挙げる人は、安定した収入も同時に絶対条件である可能性が高いということです。

幸せの必需品

ほんの一例ですが、人生はお金じゃないといいつつも、どんなことでも「とりあえず、幸せになる」ためにはお金が必要です。先ほどのインディアンの諺を別の観点から捉えるとお金は重要でないけれども必要である、ということになります。

何がしたいのか、何が自分の幸せなのか、そんなことがはっきり分かる人はそう多くありません。学生時代が社会に出るためのモラトリアム期間だとしたら、人生は幸せ探しのモラトリアムだと思います。なので、人生の目標を「とりあえず、幸せになること」と答える若者は、とりあえず働けばいいんじゃないかと思います。

いつか、自分の投資すべき幸せが見つかった時のために、お金を稼いで貯蓄しておく。それが、幸せへの第一歩だと私は思います。

参考文献:

  • 米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)
  • 『The Perfect Salary for Happiness: $75,000』 Daniel Kahneman / Angus Deaton

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
成生 淑恵

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。