ABC分析で正しくコストを把握する
正しくコストを把握できていますか?
「原価管理を行っていますか?」と問いかけた時、ほとんどの会社が行っていると答えるでしょう。ただし、その原価計算結果は本当に業務の実態を正しく表したものとなっているでしょうか。
商品やサービスに関わるコストは直接費と間接費に分かれます。ここで問題となるのは間接費をいかに適切に管理するか、ということです。間接費の配賦に関しては、業務とそれにかかったコストを適切に紐付けて管理される事は少なく、単純に売上高や生産数量等で配賦を行い、あいまいな管理がされているケースが多いのが実態です。
この問題を解決すべく、管理会計手法として登場したのがABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)です。
ABC(Activity Based Costing:活動基準原価計算)とは?
ABCとは製品やサービスを提供するための間接コストを活動単位に分割して、個々の活動ごとの基準を用いてコストを産出し、原価計算を行う手法です。もともとは製造業において、間接費を正確に製品に配賦する手法として考案されましたが、現在では非製造業はもとより、行政サービスを行う官公庁・自治体でも導入されています。ABCを適用することで、どの業務にどれだけのコストがかかっているか、それを明確に把握することができるため、業務改善に活かすことができます。
ABC分析概要と効果
ABCではまず、リソースと呼ばれる会計上の勘定科目別に把握されたコストを、リソースドライバーと呼ばれる配賦基準に従い、アクティビティ(活動)に割り当て、各アクティビティごとに集計します。
例えば、製造業のアクティビティ(活動)であれば、設計、工程管理、品質検査、受注、発注、請求、搬入、納品、段取り、保守、安全対策等があるでしょう。
これらの活動に対してかかった時間をベースにコストを割り当てます。
次に各アクティビティに集計されたコストを、アクティビティドライバーと呼ばれる配賦基準に従い、原価対象であるコストオブジェクト(製品・顧客等)に割り当てます。
これにより、各活動にどれだけのコストがかかっているか、そしてその活動結果で生み出された製品やサービスにどれだけのコストがかかっているかが明確になります。また、コストを活動単位で把握できるため、それに伴い業務改善や適切な製品・サービス価格の設定につなげることができます。
ABC分析のメリット
ABC分析を行いどのようなプロセスや活動にどれだけのコストがかかっているかを見える化することで、下記のようなメリットがあります。
- ビジネスプロセスの実態が明らかになる
- 経営資源がどのように使われたのか明らかになる
- 付加価値を生まないコストが明らかになる
- ビジネスプロセスにおける低能率、低生産性の原因が明らかになる
- 製品・サービス・受注のコスト構造が明確になる
- コストが明らかになる事で、適正な製品・サービス価格の設定ができる
ABCを活用したBPRの取組み
ABCを行い、そしてBPRにつなげていく。その実施手順とポイントは下記になります。
- 具体的な目的を関係者で共有する。
- 目的を形式的に設定せず、関係者で議論をした上で目的を確認する。
- 現状を把握し、対象業務を選定する。
- 期限を区切り、目標を立て、極力短期間でまとめる。ABC分析自体にはあまりコストをかけず、分析結果を受けた後のBPRにコストをかける。
- 複数部門にまたがるプロジェクトとなるため、関係部署の協力が得られるような体制作りが必要。
- 対象とする業務を絞り、最初はあまり詳細なレベルまでを対象とせず、問題点を絞った上で、必要であれば更に詳細な調査・分析を行う。
- コストを析出し、問題点・課題を分析する。
- コストは極力実態に近い値を使用して算出する。
- BPR実施モデル(新フロー)を策定する。
- ECRSをもとにBPRポイントを抽出する。
※ECRSとは業務改善を行う上で使用される方法論で「改善の4原則」と言われます。
E(Eliminate):やめる、捨てる、除く
C(Combine):統合する、結合する
R(Replace):置き換える
S(Simplify):簡単にする、単純にする - BPR前後の効果測定を行う。
- 新フローに対するコストを算出し、BPR実施前とのコスト比較を実施する。
おわりに
ABCは、コスト管理によって収益力を高めたりキャッシュフローを管理したりするのにも有効であり、業種や企業規模を問わず活用できる手法です。すでに製造業に限らず、流通業、金融機関、医療機関、行政機関でも導入する事例が増えてきています。これは投資に対する効果が明確に計れていない企業が多い中で、ABCがコストに着目しているため、例えば業務改善ポイントを定量的に把握できる、もしくは改善後の効果を定量的に把握できるというのが要因でしょう。効果的な業務改善を行う、投資に対する効果をしっかり把握する、そのツールとしてABCを導入してみてはいかがでしょうか。
参考文献:
- UNISYS TECHNOLOGY REVIEW 第69号
- PMAJ(旧JPMF:日本プロジェクトマネジメント・フォーラム) PM資料ガイド
- 船井総研ロジスティクスメールマガジン「物流改善(ABC分析)のススメ(2)」
コラム担当:イノベーションデザイン推進部
福島 大輔
※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。