経営は数字だけで見られるか?

数字で会社を見る

会社の健康状態を知りたい時、経営者・投資家・コンサルタントといった人たちはどのようにその健康状態を知るのでしょうか。おそらく財務諸表の数字から各種財務分析を行うことでしょう。財務諸表は、会社が1年間事業を実施してきた結果を数字で表す、いわば会社の通知表です。「塵も積もれば山となる」という言葉がありますが、1日1日の仕事の積み重ねが1年終了した時に財務諸表という通知表に結果として表れるのです。裏を返せば、数字を紐解くことによって、その会社がどのような活動を行ってきたかが分かる、数字がどのような活動を行ってきたかを教えてくれるという事です。

数字で見て、状況を知り、対策を打つ

財務諸表から財務分析を行い、さまざまな視点で経営活動をチェックする。すると、どの数字に問題がありそうかという事が分かります。もちろん単年で見てもその数字が持つ意味は分かりません。過去の事業年度と比較する、もしくは同業他社や業界標準と比較する事によって初めてその数字が良い数字なのか、悪い数字なのかが分かるのです。

状況が分かると、次はそれに対する対策を打ちます。対策を打ち、来年度の計画を立て、来年度の経営活動を行う。すると1年後にはまた通知表が出てきます。会社はこのサイクル、いわばPDCAサイクルを回して継続していくのです。

数字が全てか!?

財務諸表から財務分析を行い、数字で会社の状況を把握する。そしてその数字を改善もしくは向上させるために数値目標をたて、その数字を達成するために対策を実施します。この事自体は経営活動を行う上で非常に重要且つ必要不可欠な事です。ただし、数字のみで全てを判断するという事が経営活動を行う上で果たして良いことかと言われれば、答えは「No」だと思います。

それは、会社の経営活動を支えているものの1つに「ヒト」が存在するからです。「ヒト」には感情があり、心理があります。それは数字では量れないものです。数字で量れない「ヒト」が経営活動の要素となっている以上、「数字が全てか?」という問いに対する答えは必然的に「No」となるでしょう。

数字が全てではない ?ある会社の支払いサイトに関する例?

数字はとても重要だが、それが全てではない・・・そのひとつの例を挙げましょう。

先日ある会社の社長とお話をする機会がありました。その会社は造園業を営んでいる会社であり、家庭の外観のみならず、企業や公共施設の外観の企画から施行までを行っている会社です。その会社は決して資金が潤沢な会社ではありませんが、社長の方針で他のどの同業他社よりも支払いサイトを早くして、仕入先に早くお支払いをするそうです。それはなぜか・・・。

この会社の支払先というのはいわば下請けであり、実際の施行を外注することも多いそうです。そしてその下請け企業で実際に仕事するのは作業服を着て、土にまみれて仕事をする職人さんです。お金は働くヒトのモチベーションの一つであり、そのモチベーションは仕事の質に影響します。職人さんの仕事はそのヒトのスキルが仕事の質に直接影響するため、下請け会社の資金繰りに余裕を持たせるため、あえて自社の支払いサイトを早くしているそうです。結果どうなったか・・・。この会社は仕事の質が他社に比べて評価され仕事のオファーが増えてきているそうです。

数字だけで見ていれば、「あなたの会社は業界の中でも支払いサイトが短いですね。資金繰りの件を考えて支払いサイトを長くするようにしましょう」という判断を下すのがセオリーでしょう。ただし、この社長は数字の裏にある背景を追求し、あえて逆の選択をした。そして業績を伸ばす事に成功したのです。

おわりに

必ずしも上記の例で仕事がうまくいくとは限らないでしょう。数字を疎かにしていいという話でもありません。数字はとても重要な事をたくさん教えてくれます。ただし、この会社の成功理由は、数字の重要性はもちろん理解した上で、さらにその仕事の構成要素(仕事内容、ステークホルダー等)を深く洞察し、数字だけに捉われることなく経営判断を下した事にあるでしょう。

つまり、経営活動とは、数字を無視した感覚経営がダメなのはもちろんの事、客観的事実である数字とは言え、そこに依存しきる事も決して良くないということです。

経営活動の中では判断を下す様々な場面に出くわします。何を判断材料にするかは、判断者、判断内容、タイミング等、ケースによって違ってくるでしょう。そんな時にあなたは過度に数字偏重主義になっていませんか?数字+αを見落としていませんか?

一度自分に問いかけてみてください。その+αによっては、上記の例で挙げた会社のように、全く違った判断を下した方が良い結果につながる事があるはずです。

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
福島 大輔

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。