成長著しい東南アジアの活用
第二回:多民族国家(マレーシア)に学ぶ人との
つながり方について
株式会社ジェクシード 顧問   伊東 正行

1.多民族国家マレーシア

私が日本でGexeed社の顧問をしている以外の時間を過ごしているマレーシアは、主にマレー系・華人系・インド系といった人々が、共通語(マレー語・英語)の他に独自の言語・宗教・教育・習慣を持ちながらも、国全体としては目立った争いもなくうまく運営されている多民族国家の成功例と言われている。多民族がうまくやってゆけるコツを一言でいえば、"互いに干渉しない" ということかと思う。例えば、それぞれの正月の時期も異なり、民族独自の習慣でお祝いをすることが、広く国全体の人々の間に、またオフィシャルにも認知されている。日本にも隣は何をする人ぞという言葉があるが、快適に人生を送る一つの知恵として、互いに干渉せずに勝手に楽しむというやり方に私も異論はない。

その一方で、ある民族内の一族や同じ宗教や地縁の仲間達の中では、"互いに徹底的に助け合う" 共同体主義が歴然と存在している。現在の日本ではあまり見ることのない、この古き良き助け合い文化のお蔭で、マレーシアに於いては日本で問題となっている孤独死や引きこもりといったことはまず有り得ない。また、自殺率も先進国に比べて低く、日本の様な社会保障や生活保護制度が確立していなくても、餓死する人もいないのである。

2. 個の違いを認めるマネジメント

上記のことを述べたからと言って、私は企業経営に於いても、かつての日本の高度成長を牽引したと言われている家族主義的な経営を思い出し、時代を後戻りさせろと言っている訳ではない。そうではなく、マレーシアに於いて成功しているこの "互いに干渉しない" と "互いに徹底的に助け合う" がうまく調和した運営に、現代日本の企業経営の柱である人財マネジメントに活用できる重要なヒントが隠されている様な気がするのである。

例えば、若い社員に対して、画一的な価値観や自分の過去の成功体験を好んで語るようなマネジメントは、はっきり言ってノーサンキューと言われてしまう。社員は一様ではなく互いに異なる環境や教育の中で育ち、各々が特徴ある資質を持っているのである。多様な個性や価値観・ライフスタイル・志向には違いがあるのを認めることが、スタートラインと心得るべきである。 "互いに干渉しない" とは、裏を返せば互いの違いを尊重し合うということでもある。日本人はこういった、人との違いに慣れていない。特に日本の高度成長を企業戦士として謳歌した世代は、その一括受験教育や就職活動・社員教育等を振り返っても、特に「個の違いを認めるマネジメント」をもっと意識して実践してゆく必要がある。これが若い世代の社員とうまくやってゆくコツであると思う。

3. 組織全体に互いに助け合う・他を利する文化が定着

先般、Gexeed社では、"今年の振り返りと来年の取り組み" を議論する、中堅以上の社員の多くが参加した熱海合宿が行われたと聞いている。その中で議論された一つに、「チーム会のバリュー」や「シナジーの発揮」があったように聞いている。上司と部下の間やチームの同僚同士でも、伝わっている様で伝わっていないことはよくあるものである。リーダーシップの発揮や若い人を育てるために大切なものとは何であろうか?

私は以前、ある都市銀行の全国の400に及ぶ支店の「業績」と従業員満足度調査における「社員の支店長や課長のマネジメントについての評価」との関係性を調査分析した経験がある。そこでははっきりと傾向が出ていた。業績抜群で社員満足度も良い支店の支店長は皆一様に、強制や上下関係の指示では人は育たないとはっきり述べている。また部下は、日頃から上司の全人格や行動そのものを見ているのである。そして、業績の良い店の社員ほど、上司が仕事の結果ではなく仕事のプロセスをよく見て、その人の成長を見守り家族のことにまで気を配ってくれていると答えているのである。上司に真の信頼を寄せ、こうした人と人とのつながり、信頼こそが最も大切だということに立ち返らされるのである。そして、トップクラスの業績の支店ほど社員一人一人に、次の様なチームワークの考え方が浸透しているのである。つまりチーム力とは、人と人との垣根や組織と組織の垣根を低くくし、お客様のためにを共通の価値基準として、互いに徹底的に助け合うことであり、結果として一人一人の社員が自ら考えて行動することとなり、成長実感をも享受しているのである。つまり、「組織全体に互いに助け合う・他を利する文化が定着」してエンゲージメント(成長実感と帰属意識の高い)が高まっているのである。そして、違いを認め合った者達が、互いの信頼をベースに共通の目的・価値尺度を見出して協力し合うからこそ、真のシナジーが発揮されるのである。こうした組織では、結果として離職者も殆ど出ない。

大まかに言うと、皆さんは一日の3分の1ずつを、「会社」と「プライベート」と「睡眠」に充てているのではないだろうか。家族との関係は勿論、一日の多くの時間を仲間と一緒に過ごしている会社生活においても、人生の宝物ともいえる人と人とのつながりと信頼をベースとした絆の創造を志していただきたい。Gexeed社員の皆さんが真の生きがいと遣り甲斐のある幸せな人生を歩んでくれることを切に願ってやまない。