新聞の読み方≪下≫ <連載> 第3回
BSジャパン顧問  池内 正人

【執筆者プロフィール】
池内 正人(いけうち まさと)
1933年東京生まれ。早稲田大学第一政経学部を卒業後、日本経済新聞社入社。経済部長、編集局総務を経てテレビ東京に転じる。取締役報道局長として小池百合子、野中ともよ、小谷真生子など女性キャスターを登用した「ワールドビジネスサテライト」を立ち上げる。編成担当、営業担当、副社長を経て、99年にBSジャパン社長。2005年より現職。
<主な著書>
『テレビ局の内定がほしいなら、これは知っておけ』(PHP研究所)、『おかねのはなし』(ポプラ社)。人気ブログ『経済なんでも研究会』を執筆中。

キーワードは“比較”

新聞を「読む」極意は、比較すること。複数の新聞を読み比べてみましょう。
判りやすいように実例を挙げてみます。
8月30日付けの夕刊。経済産業省が発表した7月の鉱工業生産に関する記事です。
まず日経新聞。指数は前月より3.2%上昇、業務用機械やタブレット端末向け部品の生産が大きく伸びた。8月も0.2%、9月も1.7%上昇の見込みなどと書いてあります。
次に読売新聞。発表を基にした記事ですから、内容はだいたい同じ。でも「生産は15業種中12業種で増えた」と書いていました。
さらに「経産省ではウィンドウズXPのサポートが終わるので、法人用パソコンの買い替え需要が増えるとみている」という記述もありました。
一般常識として見る場合には、日経の記事だけで十分でしょう。でもメモをとって集中的に勉強する場合には、読売の記事をメモに加えた方がいいことは明らかです。

自分の立ち位置を考える

こんどは、大げさに言えば政治信条や経済哲学も入り混じった記事の比較です。これも実例を挙げてみましょう。
安倍首相は10月1日、消費増税を最終的に決断しました。そのあくる日、2日の朝刊です。
朝日新聞は社説で「消費増税はやむをえない」と述べたあと、同時に発表された経済対策の中身について「対策の柱がなぜ法人税の減税なのか」と疑問を投げかけました。
一方、読売新聞はこれも社説で「来春の増税は先送りすべきだが、首相が決断した以上は受け止めるしかない」と基本的な姿勢を表明しています。
さらに経済対策の内容については「法人税率の引き下げは急務だ」とも書いています。
もちろん、朝日も読売もそれぞれ主張の根拠を明らかにしていますから、関心のある人は読んでみてください
この両紙の社説を比較して読むことで、少なくとも2つの問題が提起されます。
1つは『消費増税は延期すべきだったかどうか』という問題。もう1つは『法人減税は是か非か』という問題です。
大切なことはあなた自身の考え方。この2つの問題提起に対して、どちらに賛成するかです。
その答えを出すには、あなた自身がふだんから勉強して、自分の考え方を持っていなければなりません。

固執すれば成長なし

いったん自分の考え方を固めたら絶対に変えないという人がいます。だが、それでは進歩がありません。
世の中は日に日に変わっています。だから新しい情報を取り入れたら、考え方も変わって行くのが当たり前。
いろいろな新聞記事を読んで、賛同したり批判したりしながら、自分の考え方を修正して行く姿勢が大切です。
消費増税だけではありません。たとえば原発の再稼動やTPP(環太平洋経済連携協定)など、考え方を問われる問題はたくさんあります。
これらの問題は「イエスかノーか」で答えられるほど単純ではありません。したがって細部の問題点についても、自分の考え方をしっかり持つことが重要です。
ここまでくると、あなたはもう新聞読みの達人です。新聞が来る前に、その紙面を予想して楽しむことだってできるようになるでしょう。




☆☆ 経済の一般常識を学べるサイト http://economy33.blog77.fc2.com/