新聞の読み方≪上≫ <連載> 第1回
BSジャパン顧問  池内 正人

【執筆者プロフィール】
池内 正人(いけうち まさと)
1933年東京生まれ。早稲田大学第一政経学部を卒業後、日本経済新聞社入社。経済部長、編集局総務を経てテレビ東京に転じる。取締役報道局長として小池百合子、野中ともよ、小谷真生子など女性キャスターを登用した「ワールドビジネスサテライト」を立ち上げる。編成担当、営業担当、副社長を経て、99年にBSジャパン社長。2005年より現職。
<主な著書>
『テレビ局の内定がほしいなら、これは知っておけ』(PHP研究所)、『おかねのはなし』(ポプラ社)。人気ブログ『経済なんでも研究会』を執筆中。

「読む」と「見る」の違い

「よし、明日からは新聞を隅から隅までよく読むぞ」――こんな決意を固めたことはありませんか。でも実行できた人はいないはずです。
朝刊と夕刊を合わせると、新聞のページ数は60ページぐらいになりますね。そこから広告の部分を除いた記事の字数は、だいたい文庫本1冊に匹敵します。
毎日毎日、必ず文庫本を1冊読めるでしょうか。1週間ぐらいは続いても、1か月はとてもムリでしょう。
ただ新聞全体に目を通すことなら、そんなに努力は要りませんね。この場合は「読む」のではなく「見る」だけだからです。

そこで「読む」ことと「見る」ことを、はっきり区別することが重要になってきます。

「読む」ためには目標を設定すること

人間が「読める」新聞記事の分量は、とても限られています。そこで本当に記事を「読む」ためには、何のために読むのか。目標を設定しなければなりません。
たとえば政治とか経済といった目標は、大きすぎます。企業の経営でも、まだ大きい。せいぜい「IT産業」とか「雇用問題」ぐらいの目標が適当でしょう。

それ以外の記事には目を通すな、というわけではありません。どこかの政治家が余計なことを口走って批判されているとか、プロになりたての若いゴルファーが大きな試合で優勝したとか。
こんな記事にも目を通しておくことは、周囲の人との会話を楽しくするために役立ちます。朝一番に「新聞で見たけどね」と話題を切り出せる人は、みんなに良い印象を持たれるでしょう。

特に営業関係など、お客と付き合うためにも大切な情報です。相手が野球好きなら、スポーツ面をよく見ておかねばなりません。ただ、それは見て知っておくだけ。すぐに忘れてしまっても構わない性質のものです。
その一方で自分が目標に選んだジャンルの記事は、それこそ熟読玩味してください。
たとえばIT産業を目標に選んだ場合、読むべき記事は、1週間に数本でしょう。その代わり、10回は読み返す覚悟が必要です。


スクラップは止めた方が

こう言うと、大事な記事を切り抜いてスクラップ帳に貼る人がいます。こうして保存しておけば、何度でも読み返すことができると考えるからでしょう。
しかし私の経験から判断すると、こうした“スクラップ屋さん”は、しだいに切り抜いた記事を読まなくなります。
いつでも読めるから――と安心してしまうのでしょう。スクラップ帳は溜まりますが、頭のなかには何も残りません。そのうちに記事を切り抜いて貼り付けた途端に、もう読んだ気になってしまう人が多いようです。一人前の“スクラップ屋さん”になったら、もうおしまい。

赤エンピツ派やデータベース派

大事な記事に赤エンピツで線を引きながら読む人。すぐに要点をパソコンのライブラリーに入れてしまう人。
両方とも、方法論としては合格でしょう。でも問題は、しっかり読んでいるかどうかです。
人の性格はさまざまですから、新聞の正しい読み方というのは一つではないでしょう。自分なりに最善と思われる読み方を探してみてください。
次回はご参考までに、私が長年やってきた読み方をご紹介しましょう。
(続きは9月)


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