~Oracle JD Edwards EnterpriseOneのプライベートクラウドサービス~ 「GC Smart for Cloud」

1. 背景

弊社では、約15年前からERPソフトである「Oracle JD Edwards EnterpriseOne」の導入サービスを提供してきました。当初はオンプレミスで導入していたため、サーバのH/Wの保守が切れるタイミングでシステム基盤のアップグレードの受注に繋がり、弊社での有力な収入源のひとつでありました。

しかし、お客様にとってはH/Wサポート期限というサイクルの単位で高い投資が必要でありました。
その後、VMWareという仮想化ソリューションの登場があり、サーバOSを仮想上で動作させる技術が生まれ、サーバOSはひとつのファイルで管理されるための、H/Wの乗せ換えが簡単にできるようになりました。その後、MicrosoftのHyper-Vが登場し、OS上に仮想ソフトが標準でバンドルされ、サーバの仮想化が一機に広まってきました。

弊社もMicrosoftのHyper-V上で動作する、Oracle JD Edwards EnterpriseOneのインストールテンプレート「GC Smart Server」の提供を開始しました。ここ数年の案件ではほぼ、VMWareやHyper-Vの仮想ソフトを利用したものになっています。そんな中、仮想基盤を自社のH/Wとして持つのではなく、クラウドベンダーへ利用料を払って使用するスタイル、つまり「持たないプライベートクラウド」時代が到来しました。

2. 持たないプライベートクラウドとは

「持たないプライベートクラウド」の前に「プライベートクラウド」とは企業が自社内でクラウドコンピューティングのシステムを構築し、企業内の部門やグループ会社などに対してクラウドサービスを提供する形態のことです。クラウドコンピューティングでは、コンピュータを物理的に意識することなく、アプリケーションやサービス、コンピュータリソースが利用できます。

この利点を企業内で享受するための考え方が、プライベートクラウドです。しかし、H/Wのイニシャルコスト、管理・運用、H/Wの保守期限という問題は残ります。それに対して、「持たないプライベートクラウド」とは、その名の通り、H/W資産を自社に持ちません。外部のクラウドベンダーへ利用料を払って使います。

これにより、H/W自体の運用・管理、保守切れといったことから解放されます。

3. データのセキュリティーの懸念

しかし、外部のクラウド上で動作させるシステムが、財務会計、顧客、受発注などの各データに関してはセキュリティーの観点で社外に預けることへの抵抗感があるいうのが実態です。ERPを構成するモジュールに置き換えれば、財務会計、販売管理、購買管理、人事・給与といったものがSaaS化しにくいということになります。いずれもERPを構成する主要なモジュールであります。単に現状のERPモジュールをクラウドで提供するだけでは、ユーザーのデータセキュリティに対する不安の方が勝ってしまいます。

オンプレミスと比較して安い利用料金で提供することも、ビジネス環境を考えるとなかなか難しいのが現実です。これがアプリケーションをインターネット経由で提供するという意味でのSaaSの限界点です。
この限界を突破するための手段が「PaaS」であり、「もたないプライベートクラウドコンピューティング」という考え方です。SaaSが提供するのはアプリケーション層まででありますが、それに対してPaaSはアプリケーションを開発、運用するためのミドルウェアや開発環境といった低位のレベルまでインターネット経由で提供します。クラウドコンピューティングにはさまざまな定義がありますが、ここでは「インターネット上で仮想的に提供されるハードウェア、ミドルウェア、ソフトウェア、開発環境までを含む広範なコンピューティングリソースを土台として、自身が必要とする情報システムを構築、運用すること」を指します。つまり、PaaSはユーザーがクラウドコンピューティングを実現するためのサービスということができます。

PaaS上で自社独自のカスタマイズモジュールを開発し、それを標準提供されたERPモジュールと安全に連携させることができれば、カスタマイズという問題もネット上で(クラウド内で)解決することができます。

4. Oracle JD Edwards EnterpriseOneのプライベートクラウドサービス 「GC Smart for Cloud」

「Oracle JD Edwards EnterpriseOne」で正式サポートされる仮想化ソフトが、従来では「OracleVM」のみでしたが、昨年2013年、Microsoftの「Hyper-V」も「OracleVM」に続き正式サポートが開始されました。
弊社にとっては、このことは大きなイニシアティブになります。というのも、弊社はPaaS上動作するOracle JD Edwards EnterpriseOneのプライベートクラウドサービス「GC Smart for Cloud」の提供を開始していきますが、クラウド環境は「IIJ GIO」のVシリーズで、仮想ソフトとして、Microsoftの「Hyper-V」で動作します。Oracleの正式サポートがある仮想ソフトですからERPという基幹システムを動作させるにはお客様は安心して利用できます。

それに対して、沢山のクラウドベンダーの内、安い料金のパブリック系クラウドの多くが、オープンソース仮想ソフトの「KVM」や「Xen」をベースにしています。AmazonEC2も「Xen」ベースのクラウド環境です。アプリケーション提供ベンダーからの正式サポートがあるかないかは、財務会計、顧客、受発注、給与などの基幹システムを動作させる環境としては大変重要な意味を持ちます。

そういう意味では、自社の情報システムをどの部分をクラウド化にするのか、しないのか。また、クラウド化にする場合は、どのクラウドサービスを利用するのか、アプリケーションベンダーのサポートが有るのか、無いのか。セキュリティー管理のレベルがどうなのかなど、慎重に検討する必要があります。

コラム担当:JDEソリューション本部 テクニカルソリューション部
井上 康敬

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。