Vice-CIOを育てる

CIOの台頭

多くの日本企業でも一般的になってきたCIO (最高情報責任者/Chief Information Officer)という職制。つい十数年前までは、CEO(最高経営責任者/Chief Executive Officer)がCIOを実質的に兼務している企業が多かった。
では、近年なぜこのような役割が世に求められるようになったのか。まずはその歴史から紐解いていく。

多様化するITへの期待

ほんの十数年前のITへの要求は非常に単純明快であった。
『従業員データを一括で管理したい』、『数値データの集計・分析をシステムで自動化したい』、『文書の作成、編集をシステムで簡素化したい』など。これらの要求に対しては、それぞれ「データベース管理システム」、「表計算ソフト」、「ワープロソフト」というソリューションを導入し、これにより、ユーザーの要求充足度を100%満たすことが出来た。

上記はかなり極端な事例ではあるが、このような要求に対し、CIOが登場する必要は皆無であった。ソリューションの決定に至るまでの過程が明瞭であり、そこに上位者の意思を介する必要はなかった為、CIOと呼ばれる職制は特に必要とされてこなかったと言える。

しかし現在、高度情報化社会の進展に伴って情報量は膨れ上がり、経済産業省の試算によると、2025年までに社会で取り扱われるデータ量は190倍(2008年度比)になると予測されている。昨今では、『ビッグデータ』という言葉が頻繁にクローズアップされており、IT業界でのホットトピックとなっている。情報量が増えるとともに、ITへの要求(機能要求)も実に多様化している。これに加え、「低コスト・短納期」などの非機能要求も目立つようになり、近年のシステム全体要求は、過去に類を見ない程に複雑化している。

情報が無数に存在する故に、本当に必要なソリューションも情報の山に埋没してしまっていることが多い。玉石混交の情報から宝探しをするスキルが企業には求められています。

CIOの役割

このような混沌とした時代に求められるのは、CIOの絶対的決断力である。複数の選択肢の中からより最適なIT投資を実現するためには、最高権限を持つCIOがリーダーシップを発揮し、企業の方向性を定める必要がある。
ところが、CIOの決定は必ずしも正しいとは言えない。全ての要求は飲めない為、苦渋の決断を下してIT投資を推し進める。しかしながら、「理想通りのシステムを構築することが出来ず、業務に支障をきたしてしまった」、「そもそも全く使えないシステムを構築してしまった」など、失敗事例を探ると枚挙に暇がない。

この原因を探ると、CIOの要求と現場レベルの要求が擦り合わされていない、という事態が散見される。企業のトップが掲げる理想のシステム像が、まさに「絵に描いた餅」状態になってしまっているのである。CIOの業務は多岐にわたり、十分な現場調査・落とし込みに時間を割けないことも原因の一つと考えられる。

Vice-CIOの意義と必要性の提言

そこで重要な役割を担うのが「Vice-CIO(*1)」。 CIOの右腕であり、参謀役であり、女房役とでもいうべき存在であるVice-CIOを育成し、IT投資の決定場面に存在させることが重要になる。

一コンサルタントの発言としては品位を欠くかも知れないが、ベンダー・コンサル主導のシステム構築には限界がある。外部の人間がいくら現場業務の理解に努めたとしても、実際の現場社員の要求を全て吸い上げることは到底できないと考えられる。 IT投資の成功率を向上させる為には、自社の中から、システム構築プロジェクトを統括する優秀なVice-CIOを育て上げ、CIOと現場の橋渡しを行うことが最も近道であると考えられる。

CIOの役割を「企業の情報システムの最高権限を持つ者」ではなく、「企業の情報システムの方向性を定める者」と定義し、現場への落としこみはVice-CIOが担う。現場の要求から、IT投資全体の方向性を変える必要があるのであれば、Vice-CIOがCIOに提言する。このような役割分担が出来れば、将来の企業のIT投資は安泰であると言っても過言ではない。

IT投資は企業にとって非常に大きな買い物となることが多い。今後のIT投資を成功に導く為にも、今から社内でVice-CIO育成に力を入れてみてはいかがだろうか。

注記
(*1) Viceは「副?」の意。Vice-Presidentで副大統領という意味になる。

出典
 経済産業省 産業構造審議会 情報経済分科会資料

コラム担当: ビジネスコンサルティング部
山崎 正彦

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。