コミュニケーション・ギャップが引き起こす悲劇

はじめに

コミュニケーション・ギャップとは、相互に理解しあうべきコミュニケーションで、その理解の仕方や価値観の相違、情報の不足などにより、食い違いを見せることをいいます。
「日米間のコミュニケーション・ギャップ」など、比較対象を大きな範囲で捉えることもありますが、本コラムではもう少し焦点を絞って、ビジネスにおけるコミュニケーション・ギャップについて考察していきます。

認識のズレ

例えば、ビジネスの現場でよく使われるこのフレーズ。
「御社にとって有用なソリューションを提供いたします。」

たった一文ではありますが、この短い文章の中でも話し手と受け手の間にギャップが発生する可能性が大いにあります。それは、この文章の"ソリューション"という言葉に曖昧性が潜んでいるということが一つの理由です。

幸か不幸か、日本語の中には多くの外来語が蔓延しています。さらには英語から作られた"和製英語"なるものも数多く存在しており、我々は常日頃からカタカナ語の入り混じった文章に触れています。
しかし外来語の中には、それにぴったり呼応する日本語を見つけられないケースが多くあります。呼応する日本語がないのであれば、話し手と受け手は、その外来語を外来語のまま理解しなければならず、その認識に差異が発生しやすくなります。

全てを日本語にすればギャップは発生しないのか、と問われればその答えはNoですが、外来語の多用はコミュニケーション・ギャップを生み出すリスクが高くなることは常に心得ておかなければなりません。

コミュニケーション・ギャップの例

話は変わりますが、独立行政法人・国立国語研究所の「外来語」委員会という機関をご存知でしょうか。
ここでは、『公共性の高い場で使われている分かりにくい「外来語」について、言葉遣いを工夫し提案することを目的』とした活動が行われています。(国立国語研究所「外来語」委員会HPより、一部抜粋)

本委員会が提示した資料の中では、"ソリューション"の言い換え語として、"問題解決"という日本語が挙げられています。しかし、その他の言い換え語例として、"解決支援"や"解決策"などといった言葉も連なっています。つまり、"ソリューション"に呼応する日本語は必ずしも一つではないということを示唆しています。

…閑話休題。この定義をもとに、冒頭の文章に戻ってみます。
「御社にとって有用なソリューションを提供いたします。」
"ソリューション"という言葉に呼応する日本語が複数あるのですから、この文章では話し手と受け手の認識にズレが生じることがあります。

例えば、上述の文章の話し手をITベンダーだと仮定すると、この場合の"ソリューション"という単語は、おおよその確率で"システム"と置き換えることが出来ます。(全てのケースに当てはまるわけではありませんが)
相手にとって最も適切な"ソリューション"(解決策)がシステムであるとは限らないにも関わらず、あたかもシステムこそが第一義的な問題解決手法だという印象を受けかねません。

このギャップが解消されないままに話を進めてしまうと、システム導入が主目的となってしまい、「何故システムを導入するのか」という当初の目的が置き去りにされてしまうことがあります。巨額の投資をしたにも関わらず、何の為にシステムを導入したのか分からないという状況となってしまえば、これはもう悲劇という他にありません。

この状況を回避するためには、事前に話し手と受け手の間で言葉の定義をしっかりと握っておく必要があります。話し手が必要以上にカタカナ語や業界用語を使うようであれば、特に注意する必要です。

おわりに

「業務部門とシステム部門」、「経営層と現場」、「上司と部下」、「会社とお客様」など、適切なコミュニケーションを取らなければならない関係は、日常の中に数多く存在しています。利害が対立することもありますが、そのギャップを抜かりなく適切に処理していくプロセスこそがコミュニケーションの第一歩と言えるのではないでしょうか。

参考文献:

  • 『ウチのシステムはなぜ使えない SEとユーザの失敗学』 岡嶋裕史 著(光文社新書)
  • 国立国語研究所HP

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
山崎 正彦

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。