「報われ感」を醸成する報酬のカタチ

はじめに

金融機関が投資先としてベンチャー企業を絞り込む際、「対象企業が狙うマーケット」、「事業競争力」とあわせて、「経営力」を評価の対象とするのですが、資金調達力も含めた経営陣の能力である「経営力」の評価には4つのポイントがあるそうです。

  1. 将来のビジョンをしっかり描けているかどうか
  2. 人を集め、巻き込む力があるかどうか
  3. お金を集める力があるかどうか
  4. 逆境に強く、最後に踏ん張れる人かどうか

市場の流れ、未来を予測し、戦略立案・実行に必要な経営資源として集めたカネやヒトを、特定の領域に投入し、最後までやりきることが出来るヒト。
非常にオーソドックスな考え方であり、経営環境の変化が著しい昨今であっても、本質的な部分は普遍的であると感じました。

ちなみに、経営資源であるカネの大部分を占める人件費。
日本企業における付加価値に占める人件費の割合:労働分配率は、企業種平均で50?60%ほど。人件費が企業経費に占める割合は70%とも言われています。

企業競争力の源泉となり、ビジネスのイノベーションを生み出す「ヒト」にいかに報酬として報いるか、業務遂行に対するモチベーションを引き出す効果を期待して、90年代後半以降、急速に「成果主義」の導入が進みました。

成果主義

「成果主義」とは、業務遂行の「過程」と「結果」に基づく評価という考え方であり、人事制度上では、各従業員の業務の成果(過程と結果)を報酬や昇進の評価基準とするものです。

企業は「成果主義」を導入することにより、懸命に働いて成果を挙げた従業員には、より良い報酬や評価を与えるというインセンティブを付加することができ、インセンティブを得た従業員が個々の能力を最大限に発揮し、企業としての総合力を最大限に高めることにつながるのである。

実態としては、総人件費枠という原資の中で配分を調整しており、総人件費管理という別の目的が主になって導入されているケースも多いため、従業員の「報われ感」の醸成という当初の狙いからはそれたものになってしまっているように感じます。
成果主義がうまくいかなかった要因はこの辺りにもあると思います。

では、従業員の「報われ感」を醸成する報酬とはどのようなものなのでしょうか?

今年の5月に行われた「働きがい」に関するアンケート(プレジデント・gooリサーチ共同)において、「あなたが働くモチベーションは何ですか」という問いに対し、
『給料』が最も多く、54%。ついで、『仕事自体の面白さ』『自分の成長を実感すること』『社会や他者に貢献すること』『出世や昇進』という結果が出ていました。

少し質問の角度を変えて「仕事はお金を稼ぐ手段に過ぎないか」という問いに対しては、42.7% がそう思う、強くそう思うという結果に。

この結果は階層別に見ると一般層に最も多く見られ、職位が上がるにつれ肯定評価が下がっていく傾向にあります。(部長クラスで肯定評価:33.9%、役員:24.3%)
全体で6割近くが、お金のためだけに働いているのではないという結果が出ていました。

個人の働く動機に給料以外の要素が多分にあるにもかかわらず、人事制度上の報酬で報いていることを考える経営サイドとの間にギャップが多くあると感じます。

トータル・リワード(Total Reward)

従業員の働く動機に働きかける必要があると考えた欧米企業は、トータル・リワード(Total Reward)という考え方を重視し、金銭以外の「報われ感」。非金銭的報酬についても真剣に考えています。

非金銭的報酬
A Acknowledgement 感謝と認知
B Balance 仕事と私生活の両立
C Culture 企業文化や組織の体質
D Development 成長機会の提供
E Environment 労働環境の整備
F Frame 具体的行動の明確な指示

成果主義の人事評価・報酬制度では、従来は数字責任をになう職位が上のヒトほど成果に対する影響を深く受けるように設計しますが、先のアンケート結果に見える動機からみると、一般層に色濃く反映した制度にするのも効果的に思えます。

高い成績を上げた人間に高額の金銭で報いるという方法は、長引く不況で体力が低下している企業には不可能であり、そんな余裕はありません。
経営資源としてのカネをヒトにまつわる部分に使う際の報酬について、これまで以上に従業員満足度の視点を重視して再考する必要があるかもしれません。

参考文献:

  • 「組織が大きく変わる『最高の報酬』」 著 石田 淳 発行 JMAM
  • 「「働きがい」に関するアンケート」  プレジデント・gooリサーチ共同

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
長谷川 徹

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。