創造的意思決定のすゝめ

悪貨は良貨を駆逐する

上記の命題で世間に認知されている「グレシャムの法則」。一つの社会で、材質の悪い貨幣と材質の良い貨幣が同一価値をもって流通している場合、良質の貨幣は退蔵・溶解・輸出などで市場から消えて、悪い貨幣のみが流通するという法則です。

この法則、経済学で用いるのが一般的なのですが、実は経営の様々な場面に適用することが出来るのです。

ルーチンワークは創造性を駆逐する

経営者は、‘日常反復的な仕事’と‘創造的でイノベーティブな仕事’が同時発生した場合、前者に忙殺されるあまり、後者を後回しにする傾向が強いと言われています。

ここでいう‘創造的でイノベーティブな仕事’とは、長期的な展望や革新的な課題解決案の策定など、会社の将来を見据えているような仕事のことを指します。

つまり、日常業務が改善業務を駆逐してしまうということです。

「改革なくして成長なし」。小泉元首相の名言の一つですが、これは会社を経営していく上でも非常に大事なことであると言えます。

人はルーチンワークを処理し終えると、「今日は会社のために随分働いたな」と悦に入ることがあります。もちろん、会社のために働いたという言葉に嘘や疑念を挟む余地はありません。しかし、ルーチンワークだけでは創造性を刺激することはできず、創造性が刺激されなければ会社の成長も見込めません。「短期志向は会社を駆逐する」と言っても過言ではないのです。

日常業務に忙殺されている方は、毎日少しずつでも会社の長期的戦略を考える時間、すなわち創造的な仕事に取組む時間を盛り込んでみてはいかがでしょうか。

目先の課題は本質的課題を駆逐する

少し視点を変えて、‘課題’にフォーカスしていきます。

一口に‘課題’といっても、会社の抱えている‘課題’は千差万別。どんなに優秀なコンサルタントでも全てを解決することは出来ません。

例えば、現場と経営者。両者の意見が対立することもしばしば起こります。この両者から同時に、全く別の課題が提示された場合、コンサルタントとしてどちらに重きを置いて解決策を策定すべきでしょうか。

この問題に関しては先日、弊社内部でも白熱した議論が展開されました。個人的見解ですが、結論としては「経営者の課題解決を優先すべきである」という声が勝っていたように感じます。

現場の課題の多くは目先の課題に分類されます。目先の課題にばかり目を奪われていると、本質的課題を見失う可能性が高く、結果として満足のいく改善を行うことが出来ません(もちろん例外もありますが)。

現場の効率化を図ることも重要ですが、やはりここは本質的課題への対応として、経営者の視点から課題解決を図るべきではないでしょうか。

本質的課題の解決のためには、時に必要悪の改革を迫られる場面もあります。近年の日本企業で散見される「派遣切り」や「内定切り」も、ある意味では本質的課題に目を向けた必要悪なのではないでしょうか。従業員側から見ればとても受け容れ難い、非情な改革であるように感じますが、経営者の真意(会社の将来を見据えた創造的戦略)を汲み取る努力をする必要もあるのです。

おわりに

このコラムでは、「○○は××を駆逐する」という表現を多用してきました。一見、‘前者が悪、後者が善’という構図に見えますが、決してそんなことはありません。

悪貨がなければ比較対象である良貨は存在しえません。ルーチンワークを怠っていれば会社経営そのものが危ぶまれます。目先の課題を放置していれば、後にそれが本質的課題へと変貌します。

100年に1度と言われている経済不況の中、企業の様々な課題・問題点が現在浮き彫りとなっています。こんな時だからこそ、目先の仕事や課題をこなすばかりでなく、自社の数年後の理想形を想像(創造)していくことが重要なのではないでしょうか。

参考文献: 『一橋大学ビジネススクール 知的武装講座』 著者 伊丹敬之/伊藤邦雄/沼上幹/小川英治 プレジデント社

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
山崎 正彦

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。