「ビジネスの『素(もと)』」顧客ニーズを考える

「○○の素(もと)」と言えば・・・

「○○の素(もと)」と言われてみなさんは何を思い浮かべますか?おそらく多くの方が「味の素」を思い浮かべるでしょう。「味の素」といえば、言わずと知れたうまみ調味料の代名詞であり、これを知らない日本人はいないだろうというほど、馴染みのある商品です。あまりにも聞き慣れたネーミングゆえあまり意識した事はありませんが、よくよくこのネーミングを考えてみるとすごい名前だなぁと感じます。なぜなら、この商品があらゆる味の『素』であるという事を言っているのです。言い換えれば、どんな料理に入れてもそのおいしさを作り出す『素』になるという事でしょう。

ビジネスの『素』は??

それではビジネスを作り出す『素』はいったい何か?それはまぎれもなく顧客ニーズでしょう。作れば売れる時代が終わり、今は顧客ニーズにマッチした物を作らなければ売れない時代です。この事すら今や言い古された感がありますが・・・。

つまり、顧客ニーズに応える事なくして今のビジネスは成り立たないのです。

例えば、いくらデザイン性に優れていても燃費が悪い車は売れず、今は燃費の良いエコカーが売れています。食料品では健康志向やダイエットブームからカロリーオフやゼロの商品が売上を伸ばしています。ビジネスの『素』である顧客ニーズに応えられない企業はその存続すら危ぶまれるのです。

変化に対応できなければ生き残れない!!

顧客ニーズに応えることが企業の存続にも影響を及ぼしうる重要課題であるならば、その顧客ニーズはどのように掴めばよいのでしょうか。そのキーとなるのが顧客との共有の「場」です。「場」とはまさに顧客と企業が接点を持つ場所のことであり、それは店舗のみならず、営業やマーケティング、カスタマーサポート等、顧客と企業がコミュニケーションを行う全ての場所のことです。顧客ニーズを掴むためには環境の変化を知る必要があります。顧客と接する「場」で顧客の声を聞き、環境の変化を知り、その環境の変化に伴って変わる(もしくは多様化する)顧客ニーズを掴んで、それをいかにサービスに転化できるかが企業存続の分かれ道となるでしょう。進化論で有名なダーウィンは、「最も強いものや賢いものではなく、よりよく変化できたものだけが生き残る。」と言っています。まさに変化に対応できず、顧客ニーズに応えられない企業は生き残れないのです。

「ビジネスの『素』=顧客ニーズ」を掴むには・・・

マーケティングでは顧客ニーズの把握に必要な情報収集方法は大きく4つに区分されています。それは(1)公開情報調査、(2)観察調査、(3)インタビュー調査、(4)アンケート調査の4つです。これらは目的に従って調査方法を選択したり、組み合わせて調査を行ったりしますが、ただし、これはあくまでも手法の話であって、もっと重要なことは、私はそれを行う上での思考だと考えます。顧客との共有の「場」は様々ですが、例えば営業マンがお客様と話すシーンでは、営業マンは一つ自分自身にこんな事を問いかけながらお客様と話してみるのもいいかもしれません。それは、「押し売りになっていないか?」です。押し売りと言っても、体の弱いお年寄りに強制的に羽毛布団を売りつける・・・といったものではありませんよ。お客様との「場」では、顧客ニーズに合致していなくても、ついつい商品ありきの説明や営業になりがちです。何かの商品が頭の中にあると、それを基準に思考が働き、お客様の本当のニーズを見落とす、もしくは間違って捉える事になりかねません。提案営業の場合は、特にこれを意識してみると顧客ニーズを的確に捉える事に繋がるでしょう。

「ビジネスの『素』」で大不況を生き残る!!

昨今の世界的な大不況の中で、企業は生き残りに必死です。その時に忘れてはならないのは、この大不況を乗り切った後にどのように成長をするかを同時に考えておく必要があるという事です。その準備も必要なのです。そこで、限られたリソースをどのように優先順位付けして投資するか・・・「選択と集中」が重要となります。しかし、ただ「選択と集中」をすればよいという訳ではありません。重要なのは何を「選択」し、どこに「集中」するかです。そしてその判断材料となるのが、「ビジネスの『素』=顧客ニーズ」です。我々コンサルティング業界を取り巻く環境も非常に厳しく、このコラムを書きながらも、半分は自分に言い聞かせているような感覚を持っています。弊社では最近、システムや業務等の「無償診断」や「簡易診断」サービスを開始したり、一部サービスでは一定の成果が見られない場合の「返金サービス」等を開始しました。また、様々なメディアで取り上げられた日本オラクル、日本HPと弊社3社で開発した短期・低コストERP導入パックもその一つです。これらのサービスはどれも、財務状況は厳しいが改善・改革活動は行いたいという顧客ニーズに基づいて開発したものです。ただし、環境が変われば顧客ニーズは変わります。常に環境の変化を敏感に捉え、顧客ニーズに対応していくことが、この大不況を生き残り、その先にある更なる発展への道となるのです。

おわりに

味を作り出す『素』なくしておいしい料理はできないでしょう。同様にビジネスを作り出す『素』なくして企業は存続・発展できないでしょう。「ビジネスの『素』」を見失った仕事は時として会社に大きな打撃を与えます。ついつい見失いがちになりますが、そんな時こそ原点回帰。「ビジネスの『素』って何だっけ?」と思い返してみましょう。ビジネスの場面では様々な分かれ道があります。そんな時にこの「ビジネスの『素』」が道標となり進むべき方向を指し示してくれるでしょう。

参考文献: 『組織力を高める』 著 古田興司/平井孝志 東洋経済新報社

コラム担当:イノベーションデザイン推進部
福島 大輔

※執筆者の所属は執筆当時のものであり現在とは異なる場合があります。